この記事の結論
既存のお客様に、アップセルやクロスセルで売上を上げる。ビジネスの常識として、多くの経営者が実践しています。でも、その前に立ち止まってほしいことがあります。「既存客の本当のKPIは、売上ではなく『心を戻すこと』」という視点です。長年通ってくださっている患者様の心は、実は少しずつ離れているかもしれません。この記事では、AIや同業サービスが溢れる今の時代だからこそ必要な、既存客との関係を再構築する新しい考え方をお伝えします。
こんにちは。整体院経営戦略研究所の横山です。
今日は、少し業界の常識に逆らうようなお話をさせてください。
「既存のお客様にアップセルする」「単価を上げる」…これは、経営の教科書に必ず載っている、当たり前の考え方です。私自身、多くの場面でその大切さをお伝えしてきました。
でも今日は、その「その前に、大切なことがある」というお話をしたいと思います。
あなたは、こんなサービスを使っていませんか?
まず、少し想像してみてください。
あなた自身が、今使っているサービスの中で、こんなものはありませんか?
📱 携帯電話のキャリア
🚗 マイカーのディーラーや保険
💊 かかりつけの病院や薬局
🍽️ 家族でよく行く飲食店
🏠 契約している火災保険や生命保険
💻 歯医者・整骨院・クリニック
思い当たるものが、いくつかあるのではないでしょうか。
これらのサービスに、あなたは「本当に納得して、選び続けている」でしょうか?
正直に、胸に手を当てて考えてみてください。
多くの場合、「なあなあ」で続けている
実は、多くの場合、こんな状態ではないでしょうか。
よくある「なあなあ」の状態
・「解約するのが面倒だから、続けている」
・「他に変えるほど、悪くはない」
・「他の選択肢を、真剣に考えていない」
・「気づいたら、もう何年も同じところ」
・「深く考えることを、忘れている」
これが、「積極的に選んでいる」のではなく、「他の選択肢を考えていないだけ」の状態です。
この状態は、極めて危険です
この「なあなあ」の状態、経営者側から見ると、実はとても危険な状態なのです。
なぜでしょうか。
きっかけ次第で、簡単に流れていく
「なあなあ」で続けているお客様は、こんな時に、あっさりと他に流れます。
・他社の営業担当者が、丁寧に説明してきた
・友人から「こっちの方がいいよ」と勧められた
・広告で、魅力的な新しいサービスを知った
・ふと立ち止まって、「本当にこれでいいのか?」と考えた
・家計を見直す機会があった
こんな「ちょっとした刺激」があるだけで、長年続いていた関係は、あっという間に終わることがあります。
他がいいものがあれば、そちらへ。特別な理由がなければ、乗り換えることに躊躇はありません。なぜなら、「積極的に選んでいたわけではない」からです。
これ、あなたの院でも起きているかもしれません
さて、ここからが本題です。
今お話しした「なあなあで続けているお客様」の話、実はあなたの院でも起きている可能性があります。
あなたの院の、長年通ってくださっている患者様。その方は、本当に「あなたの院を、積極的に選び続けている」のでしょうか?
胸に手を当てて、考えてみてください
・その患者様、なぜあなたの院を選んでいるか、聞いたことはありますか?
・最近、感謝の気持ちを、はっきり伝えていますか?
・「今後も、ぜひ通いたい」と、心から思ってくださっていますか?
・他院の話が出た時、「うちの方がいい」と思ってもらえていますか?
ドキッとされた先生もいらっしゃるかもしれません。
実は、3,000院を見てきた中で、「長年の患者様が、実は心では離れかけていた」というケースは、驚くほど多く見てきました。
企業の常識|「既存客にアップセル」の落とし穴
ここで、経営の教科書に必ず書いてある内容について、少しお話しさせてください。
ビジネスの常識(教科書的な考え方)
・新規客の獲得コストは、既存客維持の5倍
・既存客に新サービスを販売する方が効率的
・アップセル、クロスセルで単価を上げる
・LTV(顧客生涯価値)を最大化する
これは、間違いではありません。経営の効率を考えれば、極めて合理的な考え方です。
でも、ここに落とし穴があります。
お客様側から見ると、どうでしょうか?
経営者側は「合理的」でも、お客様側から見ると、どう映るでしょうか。
「なあなあ」で続けているお客様に、こんな声掛けをすると…
こんな声掛けは危険です
・「新しいプランに変更しませんか?」
・「回数券をお得に販売しています」
・「追加のオプションはいかがですか?」
・「新メニューを、ぜひ試してみてください」
・「よろしければ、もう一段階上のコースに…」
これらの声掛けが、お客様にとって「負担」になることがあるのです。
それをきっかけに、辞めてしまう人も
「あれ、こんなに営業されるなら…」
「なあなあで続けていたけど、いい機会だから見直そうかな」
「他院も、一度検討してみようか」
こう感じて、アップセルの声掛けが、逆に離脱のきっかけになるケースが、実は少なくないのです。
こちらから声を掛けることの、本当の怖さ
ここに、経営者としての大きな葛藤があります。
「アップセルしたい」。でも、「声を掛けたら、それをきっかけに辞められるかもしれない」。
この「動くと危ない、動かないともったいない」というジレンマ。多くの経営者が抱えている問題です。
では、どうすればいいのでしょうか?
答えは、「KPIを変える」ことです。
既存客への対応で、追いかけるべきKPIは、「売上」ではありません。
新しいKPI|お客様の心を、こちらに戻す
私が提案する、新しいKPIはこれです。
既存客のKPIは、
「売上」ではなく
「心を戻すこと」。
これが、私が26年3,000院を見てきて、辿り着いた結論です。
「心を戻す」とは、どういうことか
「なあなあ」で続けているお客様。その方の心は、実は、あなたの院から少し離れている可能性があります。
初めて来院された時の「わあ、この院、いい!」という感動。
「先生、ありがとうございます」と心から言ってくださった、あの気持ち。
時間が経つにつれて、その気持ちは、少しずつ薄れていきます。感謝が「当たり前」に変わり、「なあなあ」に変わっていく。
この状態から、「もう一度、心をこちらに投入したときの気持ちに戻す」。これが、新しいKPIです。
具体的に、どうすれば心が戻るのか
では、具体的な方法をお話しします。
ここで大切なのは、「新しい売上を作ろうとしないこと」です。
むしろ、逆の発想が必要です。
方法1|同じ金額で、新サービスやアップデートを提供
新しいサービスや、内容をアップデートしたものを、既存のお客様には同じ金額で提供する。
例|治療院での具体例
・新しい施術メニューを、既存患者様には無料で追加
・施術時間を、料金そのままで少し延長
・アフターケアの動画を、既存患者様限定でプレゼント
・セルフケアのオリジナル冊子を、追加料金なしで進呈
・新しい機器を導入したら、既存患者様は追加料金なしで体験可能
方法2|長期利用への「感謝の還元」
同じサービスでも、「長く続けてくださっているからこそ」の還元を、少しだけ加える。
例|感謝の還元
・2年以上通ってくださっている方は、施術料を少し割安に
・お誕生月に、特別なメニューを無料で提供
・年に一度、感謝の手書きハガキとちょっとしたプレゼント
・記念日(初回来院日)に、特別なメッセージを送る
方法3|「金銭的な負担なく、満足度を上げる」を徹底する
大切なのは、「お客様に金銭的な負担なく、今以上に満足していただく」という姿勢です。
「もう一段上のコースはいかがですか?」ではなく、「いつも本当にありがとうございます。今回、こんなものをご用意しました」という姿勢。
これによって、お客様の心が、もう一度あなたの院に戻ってきます。
一度「プラマイゼロ」の状態を作る
この考え方の本質は、こういうことです。
今、患者様との関係は、「マイナス」に傾いている可能性があります。「なあなあ」の状態は、実は静かなマイナスなのです。
ここで、「一度、ご破算にして、プラマイゼロにする」という発想が大切です。
「心を戻す」の3ステップ
Step 1|現状を認識する
患者様は「なあなあ」で続けている可能性がある
Step 2|付加価値で心を戻す
金銭的負担なく、満足度を上げる
Step 3|プラマイゼロから、改めて関係を築く
その後、丁寧なサポートで、自然な発展へ
プラマイゼロの後に、アップセルが自然に生まれる
誤解しないでください。この方法は、「アップセルを一切するな」という話ではありません。
アップセルは、心が戻った後の話です。
「なあなあ」の状態でアップセルを仕掛けると、離脱のリスクが高い。でも、「もう一度、この院にお世話になっているという感謝」を持っていただいた後なら、話は全く変わります。
心が戻った後、こんな変化が起きます
・患者様の方から「新しいメニュー、興味あります」と聞いてくる
・「回数券、あるならお得なので買います」と自然に
・ご家族やお友達を、積極的に紹介してくださる
・Google口コミを、自発的に書いてくださる
・他院からの誘いがあっても、「今のところが好き」と即答
こちらから売り込まなくても、お客様の方から動いてくださる。これが、心が戻った状態の証です。
なぜ、今この考え方が必要なのか
この考え方は、今の時代にこそ、特に重要です。
同業のサービスが多い時代
整体院、整骨院、鍼灸院、リラクゼーションサロン…治療系のサービスは、街中に溢れています。
患者様は、いつでも他の選択肢を選べる状況です。
AIも登場する時代
最近では、AIによるセルフケアの提案、オンラインでの姿勢診断など、代替サービスも次々と登場しています。
患者様が「別のもの」に流れるハードルは、どんどん下がっています。
「なあなあ」の関係は、簡単に壊れる
こんな時代だからこそ、「なあなあ」の関係は、これまで以上に簡単に壊れます。
そして、一度壊れた関係は、もう元には戻りません。他院に流れた患者様が、再びあなたの院に戻ってくることは、極めて稀です。
これからの時代のKPIは、
お客様の心を戻すこと。
この視点なくして、
長期的な繁盛はありえません。
よくあるご質問
Q. 「心を戻す」のに、どのくらいコストをかけていいですか?
A. 「離脱してしまった患者様を、新規で獲得し直す時のコスト」を考えてみてください。広告費、初回来院を促す割引、時間…全て合わせると、思っている以上の額になります。それに比べれば、既存の患者様に付加価値を提供するコストは、はるかに小さいはずです。ケチらず、しっかりと投資してください。1回の来院で、施術以外の何か「特別なこと」を1つ加える。この積み重ねが、心を戻します。
Q. 全ての患者様に、同じことをやるべきですか?
A. 理想はそうですが、現実的にはリソースの制約があります。まずは「長年通ってくださっている患者様」から始めることをおすすめします。3年以上通ってくださっている方、月に何回も来てくださっている方、ご家族を紹介してくださった方など。この方々の心が離れると、大きな損失になります。優先順位をつけて、段階的に進めてください。
Q. 経営が苦しい時に、こんな「投資」の余裕がありません
A. お気持ち、よく分かります。でも、経営が苦しい時こそ、既存の患者様を大切にする必要があります。既存の患者様が離れたら、経営はさらに苦しくなります。お金をかけなくてもできる「感謝の伝え方」もたくさんあります。手書きのハガキ1枚、心を込めた「ありがとうございます」の一言、覚えていた前回のお話への言及。こういった無料でできることから、始めてみてください。
Q. アップセルは、いつからしていいのですか?
A. 「心が戻った」と確信できてからです。判断基準としては、患者様の方から「新しいメニューはないんですか?」「もっと通いたいんです」と自発的な言葉が出てきたら、そのタイミングです。それまでは、こちらから売り込むのではなく、価値を提供し続けることに集中してください。焦らないことが、結果的に一番の近道です。
Q. この考え方、教科書とは真逆ですが、本当に大丈夫ですか?
A. 短期的な売上だけを見れば、教科書の「アップセル戦法」の方が効率的に見えます。でも、長期的な視点で見ると、話は全く変わります。26年3,000院を見てきて、長く繁盛している院は、必ず既存患者様の心を大切にしています。売上ではなく、関係性を大切にする経営。これが、AIの時代、同業のサービスが溢れる時代の、本当の答えだと私は信じています。
まとめ|明日から、KPIを変えませんか
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
今日のお話を、改めてまとめます。
✓ 私たちも、多くのサービスを「なあなあ」で使っている
✓ 「なあなあ」の状態は、きっかけ次第で簡単に流れる
✓ あなたの院の長年の患者様も、同じかもしれない
✓ 教科書的なアップセルは、離脱のきっかけになる
✓ 既存客のKPIは、「売上」ではなく「心を戻す」こと
✓ 同じ金額で、より価値のあるものを提供する
✓ プラマイゼロの後に、自然なアップセルが生まれる
最後に、先生に問いかけさせてください。
あなたの長年の患者様は、
本当にあなたの院を
選び続けていますか?
「なあなあ」で通ってくださっている患者様の心を、もう一度こちらに戻す。これが、これからの時代の、既存客対応の本質です。
明日、来てくださる長年の患者様に、いつもより少しだけ丁寧な感謝を。そして、施術以外の「特別な何か」を1つ、加えてみてください。その小さな積み重ねが、あなたの院を、AIの時代にも生き残る、本当に強い院に育てていきます。
「既存のお客様に、売上を求めるのではありません。
お客様の心を、もう一度こちらに戻す。
売上は、その後に自然と付いてきます。
順序を間違えないでください。」
— 整体院経営戦略研究所 代表 横山一彦
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